アイルランドにおけるウイスキーの製造の歴史は、記録によれば、スコットランドよりも古い12世紀と言われていますが、その評価を確かなものとしたのは18世紀とされています。その後、一時はスコッチウイスキーを上回る製造量を誇り、プロテスタントともに渡ったアメリカでも人気を広めました。
ターコネルもそのようにして生まれたシングルモルトのアイリッシュウイスキーですが、その後、受難の時代が訪れます。1919年のアメリカの禁酒法、1921年に始まったアイルランド内戦、さらにはアイルランド独立に伴うイングランドとの確執の余波を受け、アイリッシュウイスキーの栄華はスコッチウイスキーに取って代わられてしまいました。ターコネルを製造していたワット蒸溜所も1925年に休業となります。
しかし、1986年、ある一人の研究者が現れました。ハーバード大学でアイリッシュウイスキーの歴史を学んでいたジョン・ティーリングがクーリー蒸溜所を建設します。それはアイルランドで100年ぶりに新設されたウイスキー蒸溜所でした。そして1988年、
ターコネルは復刻を成し遂げたのです。
1970年、ジョン・ティーリングはイギリスの名門ハーバード大学で博士課程の学生でした。彼はアイリッシュウイスキーの衰退に関する論文2点を発表、その復興を志し、自ら蒸留所を建設することを決めたのです。
ティーリングはダブリン・カレッジ大学で経営学の教鞭を振るうかたわら、いくつかの鉱業や石油採掘業に関わりました。そして資金を調達し、1986年に、クーリー蒸溜所を買い取ります。そこではジャガイモを原料とした酒(スピリット)を製造していたため、設備の転用が可能だったのです。
ジョン・ティーリングの熱意と研究により、アイリッシュウイスキーが再び世界中で飲まれるようになったと言っても過言ではありません。その後、クーリー蒸溜所はサントリーに買収されましたが、現在も複数のアイリッシュウイスキーを製造しています。
アイリッシュウイスキーの特長は、ピートを使うスコッチウイスキーとは違う「クセのなさ」にあります。さらに
ターコネルは、ライムのような柑橘系を思わせる香りと、大麦のみから作られたすっきりとした味わいが強い魅力です。また、多くのアイリッシュウイスキーが3回の蒸溜を行うのに対し、2回のみの蒸溜であることも大きな特長です。ほのかに残されたモルトの風味と、樽での熟成が生みだした甘さと香りは、心地よい飲み口を生みだしているのです。
クーリー蒸溜所によって復活したターコネルですが、その後、蒸溜所は二度の売買を経て、現在はサントリーの傘下にあります。このため、日本国内での入手は比較的容易です。価格は3,000円台と、ちょっと贅沢なご褒美に相応しい価格帯です。
円柱のボトルケースとラベルは目に鮮やかなターコイズグリーンで、そこには競走馬が描かれています。先頭を走る馬の名こそが
ターコネル、このウイスキーの名の由来となった名馬なのです。1876年のアイリッシュ・クラシック・ダービーで、100倍のオッズがつけられたレースを勝ち抜いた馬であり、
ターコネルの元の製造者であるワット家の持ち馬でした。ワット氏は大喜びで、記念ラベルを作って売り出し、好評を博したのだそうです。復活にあたり、クーリー蒸溜所もその逸話を踏まえたラベルを採用しました。
クセのない爽やかな味わい、ハチミツ色の液体とラベルの美しいコントラスト、そして「勝ち馬」のエピソード――質と品と験の三つが揃った贈答用としてもおすすめの一本です。